人々のつながりが持続可能な未来をつくる。社会課題解決がテーマの事業プロデュースとは

レッド

written by 川西里奈

大手企業などと提携し、社会課題への取り組みに関する事業を支援する、イーソリューションズ。
クールビズに代表される国民運動「チーム・マイナス6%」や、次世代環境都市の実現を目指す「スマートシティプロジェクト」などさまざまな事業をプロデュースしてきました。
今回はその仕掛け人でもある同社の佐々木 経世代表取締役社長に、日本の抱える社会的課題、注目が集まる新たな地方創生モデル「富山モデル」についてうかがいました。

佐々木 経世(ささき けいしん)

佐々木 経世(ささき けいしん)

イーソリューションズ株式会社 代表取締役社長。1957年、富山県宇奈月温泉出身。慶應義塾大学大学院計測工学修士課程修了。日本鋼管株式会社(現:JFEスチール株式会社)を経てマサチューセッツ工科大学でMBA取得。ブーズ・アンド・カンパニー株式会社(現:Strategy&)、ソフトバンク株式会社事業企画室室長(社長室兼務)を経て、1999年にイーソリューションズ株式会社を設立。著書『世界で勝つ! ビジネス戦略力』(PHP研究所)。

事業プロデューサーとは、ハーモニーを生み出す指揮者

__イーソリューションズの行っている“事業プロデュース”とは、一般的なコンサルティングとはどんな違いがあるのですか?

 

佐々木経世代表取締役社長(以下、佐々木):一般的なコンサルティングは、コンサルティング企業がクライアント企業の課題に対して個別に解決策を提案していくと思いますが、イーソリューションズは大手企業などと提携し、社会課題にアプローチする新規事業の立ち上げを支援したり、立ち上げ後の戦略コンサルティングを行っています。

 

社会課題をビジネスで解決する事業プロデュースを行うには、複数の企業や大学、専門家、団体の方々といっしょになって動いていく必要があります。オーケストラに例えるなら、指揮者がいくつもの楽器の演奏家の特性を理解して、単独では生み出せないハーモニーを奏でるようなイメージかな。そういった動きを社会の中でつくるのが、イーソリューションズの役割です。

 

代表的な事例として、CO2削減を目的とした国民運動「チーム・マイナス6%」があります。環境省や内閣府、広告代理店と連携し多くの企業に働きかけたことで、開始から5年間で約35,000社の企業が参加し、個人としても343万人が参加しました。

 

__プロジェクトごとに非常に多くの人々と連携をし、幅広い領域に関わっているのですね。

 

佐々木:イーソリューションズは4つの事業部で構成されていて、それぞれの事業部によって関わっている領域も違います。

 

ライフデザイン事業部では、脳梗塞や心筋梗塞等の急性疾患を自宅で発症した際の早期発見を実現する事業開発に取り組んでいます。住宅メーカーを中心に、複数のリーディングカンパニーや国内外の医学・工学の専門家と共同でプロジェクトを進めています。ライフサイエンス事業部では、脳梗塞で傷ついた細胞を再生する治療法を開発・推進しています。

 

ソーシャルデザイン事業部では、特にエネルギー分野に焦点を当てて、政府や大手企業に対してカーボンニュートラルの事業構想の提案・支援を行っています。ソーシャルイノベーション事業部は、地方創生を産業化という観点から推進しています。地方の持っている潜在的な市場やスキルを活かして、新たな手法で展開し活性化を図っていくというものです。

▲慶應大学理工学部の社会の第一線で顕著な活躍をする同窓生へ贈られる「矢上賞」(2020年度)を受賞。

 

目先の課題や利益よりも、もっと先の未来を見据えること

__環境、医療、地方創生…どれも社会的に大変重要なテーマですね。佐々木社長が特に日本の課題と捉えているのはどんな分野ですか?

 

佐々木:日本のエネルギー自給率の低さは深刻な問題ですね。エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている日本は、再生可能エネルギーの主力化を進めなくてはならないのに、そのコストが課題となり国際社会に遅れをとっています。

 

世界はカーボンニュートラルに向けて何年も前から準備を進めてきました。今後は、環境保護への対策をとっていない企業の製品は世界で売れなくなっていきます。この状況を変えていくにはまず大企業が主体的に動いていく必要があります。その際に大切なのは目の前の利益だけを考えるのではなく、社会全体を俯瞰して戦略的に考えることなんです。

 

世界にはおもしろい事例がいくつかあるのでご紹介しますね。ヨーロッパナンバーワンのスマートシティと言われているデンマークのコペンハーゲンでは、自転車が最優先になるように交通整備をしました。その結果、渋滞が軽減されCO2も減っただけでなく、国民の健康面が改善され、年間で約320億円の医療費が減りました。

 

__えー!自転車の優遇がそんな結果をもたらすとは…!

 

佐々木:それから、オーストリアのギュッシングという人口4000人の市は、電力の多くを域外からの購入に頼り、街の7割の人が外へ出稼ぎに出ていて、“オーストリアで最も貧しい地域”と言われていました。

 

かつて林業が盛んだった地域だったので、豊富な森林資源に目をつけた行政が、バイオマス発電事業を始めると、これまでエネルギーコストとして620万ユーロも使っていたのに、1300万ユーロもの富を生み出すことに成功しました。それで終わりではありません。

 

安価なエネルギーコストを誘致した結果、林業に関わりを持つ企業が市内に50社以上増えました。そして人口4000人の街になんと1100人の雇用が生まれ、税収が4.4倍に増えたんです。その事例を元にオーストリア中でバイオマス発電が広がって、今では国全体の再生可能エネルギー比率は70% (2019年時点)を超えました。

 

__す、すごい…!そんな連鎖反応が起こることがあるのですね!

 

佐々木:日本においてもこうした事例が出てくることで、それが全国へ広がる可能性があるということです。まさに今、実行している「富山モデル」は、こうした連鎖反応が起こることを期待しています。

地域産業を活性化させる「富山モデル」が日本を先導

__「富山モデル」とは一体どんな事業なのでしょう?

 

佐々木:世界で最も使われている都市OSの1つ「FIWARE(ファイウェア)」を富山市が市全域に敷設し、企業に無償公開しています。企業は、FIWAREを活用して地域課題解決サービスをつくり、展開していくというものです。細かいメカニズムについては省略しますが、これはスマートシティ実現の基盤となり、地元産業の活性化に向けた強力な推進エンジンとなっていきます。

 

地域の企業ではスムーズなデータの展開などは難しい場合も多いですが、富山市では富山大学が全学部にデータサイエンスの授業を設け、その結果、データサイエンティストが育つ環境がいち早く確立し始めています。

 

生のデータの蓄積が必要不可欠で、実践教育がなければ習得が難しい分野ですが、富山市ではそれができるようになってきています。今後、富山大学の学生のレベルが上がり、優秀な学生が富山大学に集まっていくはずです。

 

__「富山モデル」は着々と進んでいるのですね!

 

佐々木:成功事例を富山でつくって、日本全国に広げていきたいですね。昔のように米騒動や暴走族じゃなくて、今回は成功事例の先駆けとなっていかないとね(笑)。その先で富山が今後、多くの人の拠点のひとつとして、選ばれる場所になっていけたらと思います。

 

__佐々木社長の夢を教えてください。

 

佐々木:日本の企業が利益を出しながらも、その事業を通して社会課題の解決につながっていくことかな。渋沢栄一の『論語と算盤』ではないですけれども、僕たちの役割は、それを生み出す触媒となることです。「それ、おもしろい!」と言って協力してくれる人たちが連鎖反応を起こしてどんどん増えていく、今まさにそうなってきています。

 

僕は自分の会社が大きくなって儲かったらいいとか、そんなことはどうだっていいんです。それよりも、社会課題を解決しながら未来をデザインして、そして仕掛けた事業がどんどん持続可能な社会へとつながる。その動きの背景で、潜在能力を持った素晴らしい若者たちに火がつき、世の中の課題解決事業をプロデュースしてくれたら、それが本望ですね。

▲イーソリューションズ株式会社の社員の皆さん(前列中央が佐々木代表取締役社長)。

 

取材を終えて

世界の成功事例を学ぶことは、日本の持つ可能性に気づき前向きな気持ちを持つことにつながります。これからのイーソリューションズの動きは、「こんなことをやろう!」と声を挙げたくなる若者を増やすきっかけとなり、日本の持続可能な未来をデザインしていくはず。そんな想像をして、少しわくわくした今回の取材でした。

 

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