「美しい仕事をしよう。」株式会社アカデメイア・吉年社長が受け継ぐ塗装のあり方

レッド

written by ダシマス編集部

株式会社アカデメイア

神奈川県・藤沢市で塗装・教育事業を手がける株式会社アカデメイア。業界の常識に一石を投じ、「当たり前のことを当たり前のように、誰もマネできないぐらい」を徹底する同社の経営哲学とは。先代から承継した会社のルーツと今後への想いを吉年社長に伺いました。

吉年和彦

吉年和彦

1967年大阪生まれ。株式会社アカデメイア3代目代表。2011年、関東に3ヶ月のみ単身赴任のつもりが、そのまま入社・代表就任し8年。正しい施工を塗装業界に広めるという先代の遺志を受け継ぐ。2018年8月に開校した外国人材養成校キャリアクルーズアカデミーの学校長も兼務。

「一緒に仕事をしよう」何度も声をかけてくれた先代とのご縁で事業継承

──まず、社長ご自身のキャリアについて教えてください。

社会人になって11年くらいは全然異業種で、酒類を扱う総合商社にずっと勤めてました。そんな中で、将来的にはどんな仕事に就きたいかなって考えるようになって。自分が本当にしたかった仕事が何か、自分自身に問うわけです。なんとか30歳になるまでに転職しようって決めたのが24、5歳ぐらいかな。実は、20代前半の頃に将来は建築の仕事をしたいと考えていたんです。20歳過ぎの頃、家庭の都合で奈良に住むことになったのがきっかけで、神社仏閣巡りが好きになって。自分の守り本尊が大日如来像だと知って、その坐像立像をあっちこっちの県に見に行ったりとか。門構え、入母屋、五重塔など建築物にも興味が湧いて。ある宮大工に「木は寸法で組むな、癖で組め」という話を聞いて、なんか建築って面白いなと思ったのが、この業界を目指したきっかけでした。また、普通にポストに届く住宅のチラシを見るのも結構好きだったんですよ。「自分がもし家建てるんだったらこんな間取りがいいな」ってイメージしたりして。そんなことも重なり、29歳で建築業界に転職しました。

──そこからアカデメイア入社の経緯は?

僕が29歳で転職した大阪の建設会社での初めての上司が、アカデメイアの前代表・皆川一という人だったんです。皆川はちょうど僕が入社した時に東京から大阪に赴任されてきて「今日からここの店長を務めます」っていうことで紹介されました。皆川は、全国の業績不振、品質不良の塗装工務店を立て直しに回っている人で。塗装業界の問題を正そうという第一人者でした。皆川はそこから1、2年して東京に戻って、別の仕事を始めていました。しかし、大阪に来る時は必ず連絡をくれて、食事に連れて行ってくれていました。ある時から「一緒に仕事しよう」と誘われるようになったんです。ただ家族が関西にいるし、どうしても東京に行くことができなくて。でもある時、「人間、一番貧しいのは、お金やモノがないことじゃなくて、必要とされないことだ」という言葉に出会ったんです。皆川が僕に足かけ10年以上、「君が必要だ」と言ってくれることと重なって、これはどこかのタイミングで一緒に仕事をしないといけないと思うようになりました。そして、子どもも成長していろんな物事の整理がついたタイミングで「手伝いに行きます」と関東に出てきたんです。それが当社の前身の会社でした。3ヶ月の手伝いのつもりが、今年で14年目になります。(笑)

実はね、後から見せてもらったのですが、僕と初めて会った日に皆川が日記を書いてて。「今日、吉年くんという青年と出会った。彼とはこの先一緒に仕事をしていくと感じた」って書いてあったんですね。そんなことって、なかなかないじゃないですか。ご縁があったのかなと思います。

 

一度基準が上がると、なかなか心も技術も落とせない

──前代表の皆川さんが建て直そうとしていた塗装の問題というのは?

塗装職人って何の資格も免許もいらないんです。500万以下の工事であれば建設業許可も必要ない。その結果「勝手解釈、自己基準」の施工が横行していくんです。

──具体的にはどんな問題が起きているんですか?

現状、塗装案件の大体7〜8割が不良施工というデータがあります。

大きな原因は2つで、1つは「インターバル」が守れていないこと。仕様書通りの塗装では、ローラーで下塗りをしたらどんな塗料でも4時間以上乾燥させてから次の中塗り、また4時間乾燥させてから次の上塗りをする。下塗り、中塗り、上塗りと、時間をおいて重ねることで塗膜っていうのが形成される。こうすると塗料が剥がれず、長持ちするんです。この塗り重ねまでの乾燥時間を「インターバル」というのですが、これが守れていない業者さんがほとんど。だから15年、20年持つ塗料を使っていても、実際には3年くらいで剥がれてきてしまうんです。

もう1つが「塗料使用量不足」。通常、塗料の仕様書には「1平米当たりで何リットルの塗料を使いなさい」という使用量の基準が明記してある。例えば200平米の家で、1缶で50平米塗れる塗料なら4缶必要なはず。でも、実際には薄く伸ばして綺麗に塗ったら2缶で済んでしまう。見た目は綺麗に見えても、実際は塗膜厚が薄すぎて機能を果たさないんです。

──どうしてそのような施工が横行してしまうのでしょうか?

多くの場合は悪意がないんです。ほとんどの職人さんたちが汗水垂らしながら一生懸命働いていて、悪い人じゃない。ただ、本当に正しい仕様書通りの塗装を教わっていないんですよね。先輩にならって一生懸命覚えた技術が、実は仕様書通りではなかったというケースがほとんどなんです。やり方が間違ってても、直してもらえる機会がない。

「チンタラやらないで早くやってしまえ!次の現場いくぞ!」ってずっと教わってきて、それが正しいと思ってやっている。いかに少ない塗料で、時間をかけずに仕上げられるか、というのが基準になっちゃったんですね。

──そこを正そうという取り組みを始めたのが皆川さんだったんですね。

そうです。皆川がよく言ってたのが「着実に確実に、そして誠実に」という言葉。これからは正々堂々、正しい施工でお客様の信用を勝ち取ろう、と。

実は皆川は、同じように正しい塗装を広めようというビジョンを持つプロタイムズ(アステックペイント株式会社が本部として運営する、全国の優良な屋根・外壁塗装専門施工店からなる大規模ネットワーク組織)の立ち上げにも携わっています。そのご縁で、アカデメイアでは全国のプロタイムズ加盟店を対象とした技術・接客研修を請け負っていたこともあるんです。

──皆川さんの想いを吉年さんが継ぎ、どのように取り組まれたのですか?

まず、職人さんたちに厚生労働大臣認定の「1級塗装技能士」っていう国家資格を取ってもらいました。はじめは目指すべきことを伝えて、1級塗装技能士に見合った給料を提示して。プロタイムズに協力会社として入り、継続的に仕事をもらえるという体制ができました。

──職人さんの理解を促し歩幅を合わせていくのは、かなり苦悩もあったのでは?

「今までやってたことが普通じゃないんですよ」と理解してもらうのが一番大変でした。

資格をとり、お客さんが喜んでくれる姿を見るうちに、職人さんたちも「俺たちのやり方が正しいんだ」とわかってくる。そしたら他社から転職してきた新人にも「今まで教わってきたのは手抜きなんだ。明日からこうするぞ」って伝わっていく。やっぱり、正しい技術を磨いていけるのは職人さんにとっても生きがいなんですよね。

一度基準が上がると、手を抜くことに罪悪感を感じる。なかなか心も技術も落とせない。これが「職人のプライド」ですよね。これが会社全体に伝わって、営業との連携もうまくいくようになってきました。

 

価格よりも品質で貢献していこう

──今では「最大ではなく、最良をめざす」という方針を掲げていらっしゃいますね。

そうです。言い換えると「量より質の転換」、地域密着ということにもつながります。

全国に規模を広げて利益追求をしていたら、このコンセプトが全部崩れちゃう。目の届く範囲で、ちゃんと品質が保たれていることが大事なんです。

うちは大手のハウスメーカーさんを除けば、近隣3~4社の中で一番施工料金が高いんです。なぜかというと、やっぱり手間も日数もかかっちゃうので、人件費も高くなる。これはもう、正直にお客様に話してお客様にわかってもらう。それでも、近隣の紹介がものすごく多くなってきました。「あそこはちゃんとやってる、高いのには理由がある」ってお客様からお客様に紹介してもらう、これは最強の営業ですよね。

──現在、新築ではなくリフォーム時の塗装のみをしているのは何か理由がありますか?

今は「百年住宅」の時代。戦後は家を建てて、ちょっとしたら潰して建て直すという「スクラップアンドビルド」が続いてきました。でも今は人口も減って、高齢化で子どもは少なくて、空き家が多くなってきてる。家を建て替える人がどんどん減ってきてるんです。

既存のものを壊して新しいものを作るのではなく、今あるものを長持ちさせるという所で貢献していこう、と。

実際に「この家の思い出を残したい」というお客さんに出会うと、やっぱり何かね、仕事以上のものを感じますよね。「やってやりましょう!」って。

 

一緒に作ろう!早く代わって!

──塗装において「正しい施工を広める」という既存事業とも縁を感じます。最後に、この記事を読んでいる求職者の方々にメッセージをお願いします。

もうね、

「一緒に作ろう!早く代わって!笑」

色々喋ったけど、この一言に凝縮されるかもしれない。

最近では「美しい仕事をしよう」という採用コンセプトを打ち出しているけど、一見優等生の綺麗ごとに聞こえるかもしれない。でも実際は当たり前のことを当たり前のように、誰もマネできないぐらい徹底しよう、と言いたいだけなんですよね。それがめちゃくちゃ難しいことなんですけど。でもそれをやるからこそ、お客さん、職人さんとの信頼関係、そしてチームとしての達成感が全部繋がって循環していく。これが「美しい仕事」なんだと思います。

ただお金を稼ぐだけじゃなくて、誰かに必要とされる仕事がしたい、正しいことを正しくやりたい、そしてチームで何かを成し遂げたいと思っている人がいれば、ぜひ一緒にやりましょう。

 

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