【ダシマス老舗・アスカートホールディングス】今が物流業界の価値を高める好機。2024年問題というピンチをチャンスに変える

レッド

written by ダシマス編集部

創業30年以上の老舗企業に焦点を当てる本企画。持続的な成長と成功をおさめ、時代をまたぎ社会に貢献してきた歴史を紐解き、その長い期間によって培われた文化や知見から、多くの人に気づきとインスピレーションを与えることを目指しています。

今回は、1969年に設立し、長きに渡って岡山の物流を支えてきた 株式会社アスカートホールディングスの代表取締役社長である林田 展周(はやしだ のぶひろ)さんに話を伺いました。

時代の変化にも対応し、様々な危機を乗り越えてこられた同社。その根幹には温故知新ではなく温故“創新”の考え方があるといいます。また、昨今、物流業界の話題となっている2024年問題。多くの運送会社が危機感を覚えるなか、林田社長は「業界が注目されている今こそ、自分たちの価値を高める好機」だと、力強い発言も。アスカートホールディングスの歴史と林田社長の思考を紐解きます。

代表取締役社長 林田 展周(はやしだ のぶひろ)さん

代表取締役社長 林田 展周(はやしだ のぶひろ)さん

1976年新見市生まれ。大学を卒業後、沖縄県の会社に就職。25歳で帰郷し、家業の井倉運輸に入社。創業55年を迎えた翌年の2021年4月より、代表取締役に就任。地域密着の事業を行い、社員満足度を高めるために労働環境の整備にも力を入れる。事業の成長に伴い、岡山県南に物流センターを開設するなど、事業エリアの拡大も実現した。一般社団法人岡山県トラック協会適正化委員会委員長を務め、新見商工会議所青年部に所属。地域活動にも積極的に携わっている。

執筆:大久保 崇

執筆:大久保 崇

『ダシマス』ディレクター。2020年10月フリーランスのライターとして独立。2023年1月に法人化し合同会社たかしおを設立。“社会を変えうる事業を加速させ、世の中に貢献する”をミッションとし、採用広報やサービス導入事例など、企業の記事コンテンツの制作を支援する。(取材:インビジョン 小林)

次世代にバトンをつなぐことが自分の役割であり、アイデンティティ

 

――ダシマス老舗企業特集では、これまで多くの経営者の取材を行ってきました。そこで共通点として浮かぶのが「地域密着」です。林田社長も、地元地域には特別な想いがあるのでしょうか。

私にもそうした想いはありますが、100%そうかと言われるとそこまでではないと思います。地域のためにと、力強く思われている経営者の方も多くいらっしゃると思いますが、私の場合は小学生中学生の頃、県内数ヵ所に住んでいたということもあり、自分の地元はどこ?と聞かれると、しっくりくるところがないんですよね。今住んでいるところも中学生の頃から30年以上住んでいるけれど、そこが地元かというとそうでもない。なので自分の根幹は地域に対してというよりも、また別の想いの方が強いかなと思います。それが、生まれた時から見てきた父である会長の姿や、会長から言われ続けてきた「業界の社会的地位を向上させなければならない」ということですね。これが自分のアイデンティティとなり、今の経営の軸になっていると思っています。社業については地域への特別な想いというよりもこのアイデンティティを大切にしていますが、これまで育てて頂いた新見市をはじめ、それぞれの営業拠点となっている地域に対する想いも強く持っており、父である会長も地域の様々な要職を歴任しましたし、私も出来る範囲で社業以外の務めも果たすようにしています。

 

——これまでのご経歴など、今の立場になられるまでのことをお聞かせください。

社長になったのは「たまたまタイミングがあって選ばれた」かなと思っています。家族は私含め四人兄弟で、両親からはあまり将来のことについて言われることはなく、比較的自由に育てられましたが、雑談程度ですが「会社を継ぐなら誰か一人の方が良いと思う」と言われていました。その中で私が兄弟のなかから選ばれたということではありません。大学を卒業する時の就職活動がうまくいかず、たまたま縁あって就職した先が沖縄でした。沖縄での生活も楽しく充実したものではありましたが、数年後岡山に帰りたいなと思い兄弟と相談し当社に入社しました。他の兄弟はそれぞれ充実した社会人生活を送る中、一生の仕事を見つけられなかった私が当社に入社させてもらい、今の立場になっているということです。しかし今はこれが自分に課せられた宿命だと考え、与えられた役割に対する使命感を持って取り組ませてもらっています。

昔、歴史評論家の加来耕三さんという方が武田勝頼と徳川秀忠の話をしていて、その話にすごく感銘を受けました。勝頼は「武田信玄を超えてやる、親を超えてやる」と言って頑張った結果、結局うまくいかずに武田は滅んだ。対して、徳川はなぜ300年にわたって繁栄したのか。秀忠は「家康はもう絶対に超えられない存在だから、家康がつくりあげたものを次の世代に引き継いでいく基盤をつくる」ことが、自分の役目だと考えて取り組んだからだという話でした。

その話を聞いて、継ぐ形はどうであれ、私も自分の役目を果たそうと考えるようになりました。親とは世代もビジネスの土壌も違うので、そこと相対的に評価しても、対等にならないんですよね。だから先代から自分が受けとったものを、次の世代にバトンをつなぎ、未来に向けて永続的に存在できる企業としての仕組みづくりが私の役割だなと。

先程、地域のためにというよりも、アイデンティティを大切に仕事をしていると言いましたが、そのアイデンティティというのが、業界の社会的地位を向上させ、業界の魅力を高め、働く人たちが幸せだと感じる会社を次の世代につなぐという役割なんです。

 

 

――そのアイデンティティ以外に、ご自身が大事にしている価値観などがあれば教えてください。

自分自身の人間性と、経営者としての人間性は別物だと考えているところでしょうか。素の自分は決して真面目ではないので、意識的に真面目な社長を演じているんですよね。そして演じきることが大事です。

私に求められているのは、事業規模を拡大するといった派手なことではなく、社員や地域の人たちに良い会社だと思って頂ける会社にしていくこと。そして売り上げよりも利益率を高め、安定した経営をしていくことだと考えています。仕事をする上で、経営者としての役割は絶対に忘れないように心掛けています。

また私自身の根幹としてあるものなのですが、どんなときでも絶対にブレないのは「何に対しても全力」であることです。

人には与えられている一定の能力というものがあると思います。なかには、天才的な能力をもった人もいるでしょうが、多くの人は能力値というものはほとんど変わらないと思うんですよね。私だって、頭がいいわけではないですが、それでも何に対しても全力で取り組み、絶対に妥協しないということを貫いているからこそ、ここまでやってこれたと自負しています。目標を達成できるのは、その人の能力よりも目標を達成するまで全力でやり続けられる力だと思っています。

 

温故知新ではなく温故“創新”。古きを知り、新しいものをつくりだす

 

――改めて、貴社の事業の強みや特徴などをお教えいただければと思います。

大きく2つです。一つは規模拡大や売上拡大ではなく、しっかりと利益を残しそれを社員に還元し、働いてくれている社員がやりがいを持って働ける環境づくり。もう一つはお客さまの役に立つということを常に全力でやるという対応力の高さです。

会社が成長するフェーズになったときに、振り返ってみると他の運送会社さんが断ったり、撤退したりして、もうできないとなった仕事を、我々はしぶとく最後までやり続けています。そのときのお客さまが、今も強力なパートナーとして強く繋がっているんです。

お客さまに、本当に喜んでもらえることを全力でやるという姿勢が、会社全体に根付いていると感じています。そして、いいサービスならば、価格もきちんと見合った設定にする。そのようにして、きちんと評価していただけるようなサービスを提供しています。

「お客さまの要望に対しては全力で対応する」という方針はずっと変わらないですね。

 

――長い歴史をもつ貴社ですが、時代の変化にどのように対応してきたのでしょうか。

これは私自身の座右の銘でもあるのですが、「温故創新」という考え方が会社を存続させてきたと感じています。温故知新ではなく温故“創新”ですね。古きを学び、新しきを知るだけではなく、さらに新しくつくっていこうという考えです。伝統を大事にしようという気持ちも忘れず、積極的に新しいものにチャレンジしてきたと思います。

先代も新しいものが好きです。例えば、トラックに対して先進的で新しい技術やコンピューターの導入を、全国的に見ても早い段階で行っています(平成3年1月車載コンピュータを全車両に取り付け)。そのことが業界でも話題になって、雑誌に取り上げられたこともあったくらいです。本当に、すごく早いと言われていました。

一方で、業界の基本とも言われているようなことにも、愚直に取り組み続けていていました。まさに温故創新のスタイルが会社に根付いていると感じています。

 

 

――貴社にも危機的な状況というものはあったのでしょうか。もしあったとしたら、それをどのようにして乗り越えてきたのかお聞かせください。

最も危機的状況だったのは、創業して1年経ったばかりの頃に起こった事故です。1966年(昭和41年)の8月3日、貨物列車と弊社のトラックが衝突事故を起こしました。そのときが弊社の58年の歴史で唯一、社員の方が亡くなった事故です。創業から1年にして、貨物列車と衝突し社員の方が亡くなられたということですから、それはもう本当に、会社にとって存亡の危機だったと聞いています。

私がまだ生まれていなかった頃の話ですが、この事故を境に、社内でただ荷物を運ぶだけでなく、社員の安全を守っていくという意識が生まれるようになったようです。この大きな事故以外にも、当時は事故が多かったらしく、どんどん保険料が上がっていってしまい保険会社が取り扱いを渋るというくらいだった。

ですがこの事故によって会社のリスク管理が大きく変わり、今現在は、保険料も最大割引を長い間継続できるほど、社員の安全を守る会社になりました。あの事故が、長い歴史の中でもっとも危機的状況だったと思います。

また、私が入社して以降ですと、リーマンショックやコロナがありました。その時は当然、売上や利益も厳しかったですが、社員一丸となって新しいことにも取り組み、乗り越えてきたと思います。

また、昨今は「業界にとって2024年問題も危機だ、ピンチだ」という方がいますが、私はチャンスだと捉えています。確かに大変な面もありますが、それ以上に、お客様はもちろんのこと、国民全体が運送という役割の重要さに気づいていただけたと思うと、このタイミングは我々にとって最大のチャンスが訪れていると捉えたほうがいいと考えています。

 

物流業界にとって2024年問題はチャンス。業界価値を高めるには絶好の機会は今

 

――2024年問題について、林田社長がどのように考えているのかもう少し詳しく教えてください。

まず、1990年(平成2年)の貨物自動車運送事業法の施行、規制緩和の影響によって参入しやすくなり、それまでは約40,000社あった運送事業者が約63,000社に増えました。日本の国土が広がったわけでもなく、人口も減少傾向にあるにもかかわらず、運送業者が1.5倍になるわけですから、何か削らないといけないですよね。

じゃあ運送業で削れるのは何か。高速代や燃料代など、トラックにかかる部分は削れないとなると人件費しかありません。人件費を削ろうと思うと、結局ドライバーさんは給与を維持する為にこれまで以上に寝ずに働いたり、高速道路を使わず倹約して一般道を走ったりすることになります。そうした流れだった業界に、働き方改革という規制がかかってきたので、厳しくなる運送会社さんが出てきているのでしょう。間違いなく、今後、業者数はさらに減ると思います。以前、物流業界を研究している学者の方と話したのですが、同じ見解でした。

ただ、2024年問題というのは最大のピンチである一方で、間違いなくチャンスに変えることができると見ています。注目度の高い今こそ、物流業界の価値を高めていけるはずです。

あの通販で有名なジャパネットたかたも、今までは「送料無料!」とだけ言っていたのが、最近では「送料無料でも、私たちは運送会社さんにきちんとお支払いします」と言うんですよ。私も、たまたま放送を見たタイミングでそうした発言を聞いたのですが、世間の認知やイメージが変わっているのを実感しました。

私はこうした変化が起こる前から、「物流や運送がきちんと注目されるように働きかけないと、我々の社会的地位は上がらないし、採用活動も苦しくなる」と言い続けてきました。だからこそ、注目されている今、物流の価値を高めるチャンスなんだと強く思うのかもしれませんね。

 

 

――実際のところ、2024年問題に対処できないところも出てきて、事業撤退となるところは多いかと思います。そして事業者が減れば、たちまち1社あたりの負担が増えて、クオリティを担保することが厳しくなりそうだとも考えられるのですが、その点はどう見ていますか。

それは、どこに視点を合わせるかだと思いますね。正直に申し上げると、クオリティを担保できないような人たちが儲かっている姿を見ると嫌な気持ちになります。しかし、これまではそれがある程度許されていました。

今、私は業界のある委員会に属しているのですが、定期的に運送業界の労働状況について議論しています。この委員会には指導員という役割があり、彼らが問題ある会社を陸運支局に報告して、正式に監査が入るという流れがあるんです。こうした指導員の活動は、昔に比べてかなり活発になりました。まだまだ、こうした監査から漏れているひどい会社も少なくありませんが、ここはもう地道に続けていくしかないと思っています。

童話の「うさぎと亀」でいうところの、真面目な亀のように頑張っている会社が最後まで生き残るでしょう。実直に真面目であることが大事ですね。派手さはなくとも最後まで生き残り、最後に勝てる会社となれるよう、実直に歩み続けることが重要だと考えています。

 

――ありがとうございました。最後に読者へメッセージをお願いします。

最後まで読んで頂きありがとうございました。今年は運送業界にとって大きな変革の年であり、飛躍の年になると思っています。地域を支える社会インフラである物流の、新しい未来に向かって、一緒にチャレンジしていきましょう。

 

アスカートの詳細はこちらから

ホームページ:https://www.ascart.co.jp/

 

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