町工場から世界を変える日ノ出工機――会社を支える魅力的な職人達の姿を広めたい

レッド

written by ダシマス編集部

福島県郡山市に本社を構え、各種産業機器に使用される小型モーターメーカーのシャフトやバルブ関連部品、油圧機器関連部品など精密部品の製造組立・加工をする日ノ出工機株式会社(以下:日ノ出工機)。

同社で若くして代表取締役を務めるのは渡辺拓美(わたなべ たくみ)さんです。取締役として同社の出向となった渡辺さんでしたが、最初のミッションは赤字からの立て直しでした。見事、黒字化に成功し、昨年2023年4月に代表取締役に就任しました(取材:2024年4月)。

そんな渡辺さんが、人生を生きるうえで大事にしていることが「かっこよく生きること」。そして同社には、そんな渡辺さんが本気でかっこいいと思える職人さんが沢山います。

そんな魅力的な職人さんが多いという日ノ出工機のことや、渡辺さん自身が大切にしている考え方など、たっぷりと話していただきました。

代表取締役社長 渡辺 拓美(わたなべ たくみ)さん

代表取締役社長 渡辺 拓美(わたなべ たくみ)さん

1990年 三春町生まれ。国際情報工科自動車大学校卒業。2018年に二見屋工業㈱(須賀川市)へ入社。翌2019年 日ノ出工機㈱へ出向。2023年4月に日ノ出工機㈱の代表取締役に就任。 2022年 「OPEN FACTORY KORIYAMA」を立ち上げ、工場を一般公開し、町工場の魅力やものづくりの楽しさを伝える活動を企画・運営している。

執筆:大久保 崇

執筆:大久保 崇

『ダシマス』ディレクター。2020年10月、在宅ワークをするためにフリーランスのライターとして独立。2023年1月、クライアントの重要なパートナーとして伴走するべく法人化。“社会を変えうる事業を加速させ、世の中に貢献する”をミッションとする。

勇往邁進――現場を巻き込みながら挑戦を続ける若き代表

――まず日ノ出工機さんについて教えてください。

日ノ出工機は1950年6月に創業し、今期で74年目を迎えます。金属の切削加工によって精密部品を製造し、電気、自動車、鉄道関係、半導体など幅広い業界に納品しています。

「価値創造型企業」というキャッチコピーのもと、お客様に対しては技術と品質を価値として提供し、従業員に対しては仕事を通じて楽しさを価値としてつくり出せる企業を目指しています。

 

――渡辺さんが、代表取締役社長に就任されるまでの経緯を教えてください。

前職は、郡山市の隣町の企業でNC旋盤のオペレーターとして勤務しました。そろそろ1年が経とうとした頃、社長に呼ばれ「日ノ出工機を子会社にする。お前、行くか」と言われました。

出向を言い渡された時は、状況がよくわかっていなかったし製造業の経験もほとんどなく、どんな立場で出向になるのかも把握していませんでした。断る理由もないので「行きます」と答えたのですが、出向初日に登記簿を見て、取締役という立場であることを初めて知りました。

当時、社長から言われたのは「赤字の会社だから黒字にしてこい」ということだけです。かなりハードルの高いことを要求されたので、僕自身のやる気が出るように「黒字にしたら社長にしてください」とお願いしました。そして4年ほどかかりましたが実際に黒字にして、2023年4月に社長に就任したという流れですね。

 

 

――本当に黒字にしたのはすごいですね!その4年間はきっと大変だったのでしょう。

とにかく思いついたことは何でもやってみた、という4年間でしたね。製造業の経験だけなく経営の経験もなかったのですが、かといって親会社の社長や役員の方々から特に指導はなく、聞いても「まずは自分で考え行動しなさい」と言われるだけでした。今となっては、それが良い経験になったと感謝しています。

試算表の見方を自分から会計事務所に聞いて教わり、Excelに落とし込んで変動費と固定費に分けました。まず改善するべきは変動費の削減にあると考え、削減できるターゲットを絞って徹底的に改善していきましたね。

また、営業活動にも力を入れました。既にお付き合いいただいている方々にも良くしていただき、仕事を紹介していただきつつ、新規取引先を開拓して売上を伸ばしていきました。

でも黒字化に至った何よりの理由は、製造未経験の29歳の僕についてきてくれた従業員の皆さんの存在です。そんな皆さんに助けられて、ここまで来た4年間でした。

 

――経営者として大切にしていることを教えてください。

トップダウンではなく、ボトムアップの経営を大事にしています。僕は基本的に一人で経営せず、何かちょっとした改善をする際も現場の人を巻き込むんです。みんなと話して「じゃあこういう風にしよう」という意思決定の仕方が多いですね。

 

――経営に限定せず、渡辺さんご自身が大切にされている価値観や考え方も教えてください。

昔からずっと曲げずに思っていることは、シンプルに「かっこよく生きたい」ということです。仕事においては挑戦し続けることを大事にしています。会社のためになることであれば、何でも取り組む気持ちです。

僕の座右の銘は「勇往邁進」。恐れることなく目標に向かって突き進むという意味なのですが、幼い頃からこの言葉が好きでした。変化を恐れずに、何かにチャレンジしていく姿勢は、何事においても大事にしていることです。

 

ものづくりには誰かの希望を叶える力がある。それを実現するのが町工場の職人だ

――「かっこよく生きたい」っていいですね!日ノ出工機に来てから何か影響されたことはありますか。

現場で働く職人さんのかっこよさを感じる機会は沢山ありましたね。

うちの職人さんは、一つひとつの製品を完璧に仕上げようとする思いが非常に強いです。金属加工では、お客様の図面通りに製品を作り、検査に合格すれば納品できます。多少の寸法誤差や傷は許容範囲内なら基本は問題ありません。

でも職人さんは、どの製品も"チャンピオン"級の製品をつくろうとします。要求を満たすだけでなく、常に最高の品質を追求するんです。こうした職人さんの熱意や、数値や言葉では表せない技術やノウハウによって、製品の品質が担保されていると感じています。これは決して、AIやロボットでは再現できないものです。

 

〈工作機械を操る職人〉

 

最近、ある車両に搭載する製品を日ノ出工機と別の会社で比較される機会がありました。実際に搭載してみたところ、相手先の製品は性能を発揮できず、うちの製品が要求性能を満たしたんです。それで受注が確定しました。

 

――それはまさに職人さんの仕事の賜物ですね。

あと、自社製品として櫛(くし)をつくったときにも感じました。

この櫛は、僕がデザインを1から考え、自分が使いたいというだけの理由で現場の方にお願いしたものです(笑)。最初は「また変なものを」と思われるかと思いきや、みんな楽しそうにつくってくれました。ちゃんと形になって、今はそれを販売しています。

 

〈渡辺さんが考案して生まれたリーゼント用の櫛〉

 

その時、ものづくりは誰かの希望を叶える力があると感じました。そして、その希望を叶えられる人たちが職人さん達なんです。僕は製造業を知らなかったので、最初は工場で働くのは毎日同じことの繰り返しで、何が生きがいなのだろうと思っていました。でも実際に働いてみると、何かをつくることで誰かが笑顔になっていると感じられたんです。

そんな職人さんたちにもっと光を当てたいという思いがあり、2022年から郡山市の町工場が集まるオープンファクトリーというイベントを開催しています。工場を開放し、ものづくりの技術を広く知ってもらう取り組みです。僕が実行委員長を務めています。

 

〈OPEN FACTORY KORIYAMA2023 メイン会場での集合写真〉

 

公式Instagram

 

そのイベントで、子供たちが工場に来て職人さんと交流する姿や、工作機械を使ったワークショップで「すごい、すごい!」って喜んでくれて笑顔になる様子をたくさん見られるんです。そんなことができる職人さん達は、本当にかっこいいと思います。

 

〈郡山駅西口広場で開催した「kouba cafe.」の模様〉

 

――オープンファクトリーを始めたことで、自社にどんな影響がありましたか。

まず、メディアに取り上げていただく機会が大幅に増えました。その影響もあってか、名刺交換をすると「日ノ出工機、聞いたことあるよ」と言われることが増えてきましたね。少しずつ、会社の知名度も上がってきているのかなと感じています。あと、コンビニに行くとたまに声をかけられることもあります。正直、ちょっと恥ずかしいですが。

また、うちの会社だけでなく、一緒に取り組む企業にも変化がありました。オープンファクトリーをきっかけに、自社の技術を多くの人に伝えようと考える時間をつくるようになり、「経営者と従業員のコミュニケーションが格段に良くなって雰囲気が一変した」という会社があったんです。

僕たちだけでなく、イベントに参加してくれる企業にもいい影響があるのはほんとに嬉しくて。この取り組みは今後も力を入れて続けていきます。

 

精密な技術力が強み。今後はBtoBだけでなくBtoCにも注力する

――今、日ノ出工機さんが力を入れている事業などあれば教えてください。

精密加工の技術力を生かして、本業のものづくり事業を拡大しています。特にBtoBの領域では、特定の業界に偏ることなく幅広い業界のお客様を増やし、業績を安定させたいと考えて取り組んできました。

また、最近はBtoC事業にも着手しはじめました。まだ事業と呼べるレベルではないのですが、先程の櫛のように自分が欲しいと思ったものをつくったら、周りの方の反応が意外と良くて。それで今はネックレスのトップを製作し、郡山市の駅前にある洋服店で販売するという企画を進めています。

 

〈職人のこだわりと技術が生きる細かい彫り込み〉

 

今年は特に、こうした自社製品の開発に力を入れていきたいですね。できることは何でもやっておこうという気持ちです。

 

――日ノ出工機さんが、他にどんな製品をつくっているのかを読者の方々に伝えたいのですが主力製品は何でしょうか。具体例も交えて教えていただきたいです。

主力製品というか、僕たちの強みは小さなものがつくれるところです。手のひらサイズ以下の製品をつくるのが得意でその技術力を売りにしています。

 

〈日ノ出工機で作り出される精密部品〉

 

具体例としては、ショベルカーの油圧部品やエンジンの中の部品ですね。JR東日本さんの仕事もさせてもらっているのですが、電車が走る際に車体の水平を保つためのバルブに必要な製品をつくっています。このバルブがないと、ガタガタ揺れて人が電車に乗れなくなってしまう大事な部分です。

 

町工場から世界を変え、沢山の笑顔をつくるために挑戦し続ける

――職場の雰囲気や制度、働いている方々について教えてください。

アットホームだと言われることが多いですね。従業員は22名(2024年4月現在)で、年齢層は50代半ばが中心です。

 

 

職場環境の整備には力を入れていて、健康経営の認定も取得しました。従業員の健康には気を配り、金属加工で使用する油も肌に優しいものに変更するなどしています。掃除にも熱心に取り組んでいるので、一般的にイメージされる工場よりは、匂いもきつくなくて綺麗だと思います。

有給休暇の取得もしやすい環境で、誕生日や記念日に使えるアニバーサリー休暇も設けています。今後は、より安全に働ける環境づくりや健康セミナーの開催など、従業員の健康維持にさらに取り組んでいくつもりです。

 

――渡辺さんが思う「町工場で働く魅力とやりがい」を教えてください。

町工場は会社の規模が小さいので、大きな企業にあるような組織的な煩わしさがありません。スピード感は桁違いで、つくりたいものをつくろうと思えばすぐに形にできるのが魅力です。

また、職人さんから直接技術を学べるのも大きなメリットだと思います。学んだことは全て自分の糧になるので、無駄なことは一つもないですよ。

 

――最後に読者へ一言お願いします。

日ノ出工機は変化を恐れずに挑戦する会社で、町工場から世界を変えようと日々取り組んでいます。ものづくりの力で、子供たちをはじめ色んな人を笑顔にしていくつもりです。

その一員として、僕たちと一緒に働いてみませんか。

 

日ノ出工機株式会社の詳細はこちらから

ホームページ:http://www.hinode-k.co.jp/index.html

 

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