御首題と寺猫がつなぐ、人とのご縁。

レッド

written by 五十嵐清美

妙建山 本立寺

人とお寺がつながるきっかけをつくる

本立寺のInstagramに並んでいるのは、荘厳な伽藍でも、仏教の教えでもない。参道の桜、境内の花、ベンチの上で寝ている猫。

投稿される写真や御首題(ごしゅだい)をきっかけに、人とお寺のあいだに接点が生まれている。その担い手は、寺務スタッフの中島さん。副住職の妹であり、御首題を書き、服飾学校の講師としての顔も持つ。

描いたり、作ったり。

「私は副住職の妹で、実家がこちらのお寺なんです。ずっと敷地内の離れに住んでいて。大学を卒業するまでは、敷地内にある家にいたので、たまにお手伝いする程度でした。」

大学時代の就職活動では、写真スタジオから内定をもらっていたが、方向転換。将来の向かう先は、昔から自分が好きだった「何かを作ること」。

「小さい頃、ワクワクさんが大好きで小学生から手芸もやっていました。自分に合う洋服を作りたいなと思ったんです。でも、絵を描いたり、デザインを起こすのは苦手。どうしようかと思った時に、「パタンナー」という職業を知りました。デザインを見て型紙にする人がいるんだって知って。そっちのほうに興味を持って、勉強してみようかなって。」

洋服の仕事といえば、デザイナーと縫う人しか思い浮かばなかった。そんな彼女は自らの手で、やれることを増やしていける才能に溢れていた。

「お寺では、この御首題を描いたり、SNSのInstagramを担当しています。経理である母を手伝ってのパソコン作業も行っています。」

御首題とは、日蓮宗(および日蓮系の一部宗派)の寺院において、参拝や信仰の証として授与される「南無妙法蓮華経」のお題目が中心に書かれたもの。本立寺の御首題は、季節に合わせた絵が色鮮やかに描かれている。

 

ご先祖様が眠るお墓の、「今この時」を届ける。

「インスタも御首題と同じで、基本的にほっこりできて癒されてもらえたらいいなと思っているんです。境内で綺麗だと思った瞬間や、その季節らしさを切り取るようにしています。」

被写体は、花の様子、境内の光、そこにいる生き物。その投稿は想像を超えて多くの反響を呼んでいる。

「檀家さんだけじゃなくて、ご近所の方もフォローしてくださっていて。『近くに住んでるけど、こんなに自然があるのは知らなかった』と言って来てくれる方もいるんです。私自身、ここで育ったので割と当たり前の景色だったんですけど、カエルがいたり、蛇も出るんです。たまにカブトムシがいたりして。自分たちにとっては当たり前だと思っていた、賑やかな自然の世界をお裾分けする気持ちで掲載しています。」

投稿をきっかけに、本立寺の新しい姿を見ることができるようになり、すぐには来られない人にとっては、投稿が近況報告になりつつある。

「インスタを見ていると境内の季節の様子が分かるので、『お墓があるところが、リアルタイムで感じられて、楽しく見ている』と言ってくださった方がいて。今こんな感じですよっていう報告も兼ねるようにしています。」

お墓がある場所の、今が分かる。それだけで安心できる人がいる。だから中島さんが意識しているのは、むしろ引き算のほうだ。

「あんまりお寺らしい投稿になりすぎないように心掛けています。仏教のこととか、ちょっと固めのお話は、他のお寺さんでも上がっているので、それはそちらにお任せして。私は、パッと見て『なんか綺麗だな』と思うようなインスタになるようにって意識しています。」

伝えたいのは教えではなく、今日の境内。その心掛けが、お寺と誰かを繋がりやすくしているのかもしれない。

 

あの時喜んでもらえたから、今も続いている。

「私、本当に絵が得意じゃなくて。」

苦手だったことに向き合うきっかけは、受付にやってきた、ひとりの参拝者だった。

「イラスト付きのご朱印を集めている方が、突然来られて。受付で『イラスト入りのご朱印を集めてるんですけど、ありますか?』って。その時は全くなかったんですけど、『書いてください』ってお願いされたんです。」

急遽その場で描いたのが、山門近くに祠がある元禄地蔵尊。三体のお地蔵さんをモチーフにした、ゆるいイラストだった。

「その方がすごく喜んでくださって。『こんなに喜んでもらえるんだったら、続けてみようか』という話になりました。イラストを学んだこともないし、本当に得意なわけじゃないので、今も正直悩むことも多いんです。季節に合わせて書いているので、完成を目指す1ヶ月前くらいからテーマを考え始めます。1枚を仕上げるのに、だいたい2週間くらい時間をかけてます。最近、参考のために図鑑を買ったんです。季節ごとに花が分かれているので、「この花を使おう」と決めて、花言葉を調べたり。新しいことが知れるので面白いですね。」

「新しいのできました」とInstagramに投稿すると、すぐに来てくれる人がいる。発信と、来訪と、手渡しの循環が続いている。

「先日、ご法事を終えた方から「御首題はありますか」と尋ねられたんです。イラスト入りのものを見て、選んでくださって。その日の日付を書き入れてお渡ししたら、『記念になる』ってすごく喜んでもらえて。そのご法事に、ほっこりをちょっと添えられたかなって思いました。そういう使い方もいいなって思うきっかけになりましたね。」

一枚の絵が、その家族にとっての記念日を飾るものになる。使い方を教えてくれたのも、お寺を訪れた人だった。

バンビが、きっかけをつくってくれる

「元は、バンビの他にもう一匹『ごまちゃん』と呼んでいた猫がいて、二匹セットだったんです。突然参道にやってきた野良猫です。今も半分野良猫ですね。お参りに来た方も『今日バンビちゃんいますか?』って覚えられている看板猫になりました。みんなの癒しの存在になってます。お参りのついでにバンビを撫でるのが楽しみな人がいたり。バンビのほうが多分一番ファンがついていて、ちょっと複雑な気持ちです(笑)」

Instagramで一番再生数が多いのはバンビの動画。年賀状に「バンビちゃん元気ですか?」と書いてくれている人もいる。御首題を毎回取りに来る人が、御首題とバンビを一緒に撮っていく。

「お寺で猫に会えるといいことがあるらしいと言う人もいて、お参り以外にもお寺に来るきっかけに、御首題もバンビもなっているのかなって思います。」

きっかけさえあれば、人は門をくぐる。そして一度くぐった人にぜひ見てほしい、とっておきの場所を教えてくれた。

「一番境内が綺麗なのは桜の時期です。参道の両サイドに桜が咲いているので、一番華やか。二月くらいから早咲きの河津桜が咲きはじめて、六種類ほどの桜が順番に咲いていきます。」

そして、御首題のモチーフになった、あのお地蔵さん。

「山門を入ってすぐ右手の元禄地蔵尊に手を合わせてもらえたら。私も昔から困ったことがあると手を合わせて守ってもらっています。とても頼りにしているお地蔵さんなんですよ。個人的なおすすめをもう一つ。駐車場の奥のほうに行くと、隠れ北斗七星があるんです。結構大きいんですよ。ぜひお越しの際に探してみてください。きっかけは何だっていいんです。檀家さんじゃなくても、お散歩がてら、休憩やリフレッシュしに。道路から一歩入ったら、本当にすごく静かなので。気軽に、来てもらったら嬉しいなって思います。」

セミの声を聞きに。時期によってはカエルの声を。ベンチに座って猫を眺めて。

「お寺には『怖い』『古い』『暗い』みたいなイメージが、ずっと私にもあって。友達にもあんまり家がお寺とは言わなかったんです。特に夜は、参道がすごく暗いので、一人で帰ってくる時はダッシュで帰ってきてたりしてました。

でも、逆だったんです。

ある時、母から『全然怖くないよ』って言われて。亡くなった先代のおじいちゃんとか、今の住職の父がしっかり供養しているから、お化けは出ないし、むしろ一番安全な場所でしょうって。『あ、そっか』ってすごく納得したんですよね。そこから全然怖くなくなって、むしろちょっと温かい場所だなって思うようになりました。

お参りに来てくれて『境内にこんなほっこりスポットや、いいところがありましたよ!』って教えてもらえたら嬉しいです。

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