言葉になる前の気持ちに、気づける人でいたい。 ひばりヶ丘保育園での19年。
written by ダシマス編集部
社会福祉法人那須若葉会
「ひばりの子たちは、声がしっかり出るね」。
そんな言葉をかけられる背景には、日々のリトミックと、子どもたちの小さな「できた」の積み重ねがある。
社会福祉法人那須若葉会が運営するひばりヶ丘保育園で、19年間子どもたちと向き合ってきた先生。大切にしているのは、何気ない会話から一人ひとりの「いつも」を知り、言葉になる前の気持ちに気づくこと。
かつての園児が保育士を目指して戻ってきた喜び、迷った時に立ち返る「子ども第一主義」、そして自身も経験した、人に頼ることの大切さ。
19年の歩みを通して見えてきた、子どもたちへの想いを聞いた。
「ひばりの子たちは、声がしっかり出るね」
——ひばりヶ丘保育園の保育について教えてください。
発表会や運動会の練習を見た他園の園長先生から、「ひばりの子たちは声がしっかり出るね」「姿勢よく立てるね」と言っていただくことがあります。そこに、ひばりヶ丘保育園らしさが詰まっている気がします。
その声や姿勢を育んでいるのが、幼児クラスの頃から毎日取り入れているリトミックです。音楽に触れながら体を動かす教育法で、姿勢や声の出し方も身につけていきます。
月に一度は専門の講師の先生に来ていただき、私たちが日頃伝えていることに加えて、直接指導を受ける時間もあります。例えば、立つ時の足の形は「チューリップ足」。先生の声かけに合わせてみんなで取り組むと、友達が褒められたのを見て、自分も足の形をつくって「僕もチューリップ足だよ」と見せに来てくれる子もいます。

正しい姿勢が分かると、発声も良くなります。歌声が大きくはっきり届くようになって、褒められることも増えていく。その積み重ねが小さな成功体験になり、新しいことに挑戦する楽しさにもつながっているのだと思います。他園の先生方が見てくださった子どもたちの姿には、そうした日々が表れているのかもしれません。
——日々続けていく中で、子どもたちにどんな変化がありますか。
最初はできなかったことが、少しずつできるようになっていきます。その変化を自分でも感じられることが、最後まで諦めずに頑張る気持ちにつながっているのだと思います。
発表会では、大きくなったら何になりたいかを自分で書いて、スクリーンに映したり、発表したりするんです。人前で話すのが苦手だった子が、みんなの前に立って、自分の夢を伝えている。その姿を見ると、「言えるようになったんだな」と胸がいっぱいになります。
発表している姿に、普段の様子や、それまでできなかったことも重なって見えるんです。毎日の小さな「できた」を見てきたからこそ、その成長を子どもと一緒に喜べるのが嬉しいですね。
子どもたちの「いつも」を知っておく
——園児と関わる中で、迷うことや難しいことはありますか。
子どもも私たち大人と同様で、よく話す子も静かな子も色々なタイプがいます。普通のことかもしれませんが、日頃から色々な子どもたちと話す機会を作るようにしています。
自分から来てくれる子の話を聞くのはもちろん、なかなか来てくれない子には、私から声をかけます。
それでも話してくれない時は、まず自分のことを話します。本当に何気ない話をしてから、相手にも聞いてみる。大人同士でも、自分のことを話してくれる人には、こちらも話しやすくなることがありますよね。
実は私、人見知りなんです。だから、話すことへのためらいには、少し寄り添えるのかもしれません。まずは話しやすい雰囲気をつくって、関わりを重ねていきたいと思っています。
——そうした日々のやり取りが、保育の中で生きるのはどんな時ですか。
「今日はいつもと違うかな」と感じる時ですね。普段の表情や話し方を知っていると、今日の様子との違いにも気づきやすくなります。言葉だけでは、どんな気持ちで言っているのか分からないこともあるので。
まだ気持ちを言葉にできない年齢では、お友達に手が出たり、噛みついたりすることもあります。顔を引っかいてしまい、傷が残りそうになったこともありました。けがをした子の保護者の方から厳しい言葉をいただき、心が折れそうになったこともあります。
「子どもが好き」という気持ちだけでは、うまくいかないこともたくさんあります。だからこそ、困っている時に気づける先生でいたい。話してくれたことを聞くだけでなく、表情や普段との違いも見ながら、一人ひとりを知っていくことが大切だと思っています。
迷った時は、子どもの側から考える

——先輩の先生たちからは、どんなふうに仕事を教わりましたか。
最初の約2年間は、副担任として先輩と一緒に保育をしながら仕事を覚えました。
当時は、運動会のメダルも、行事のプログラムも、クラスに貼る誕生表も手作りでした。子どもたちと一緒に作る季節の制作も、その前に私たちが材料を切ったり、準備したりするんです。
子どもたちと過ごす時間のほかに、そうした準備も進めていきます。画用紙を切るだけでも、丸い形なら曲線が滑らかになるように。一つひとつをきれいに仕上げるのは、思っていたより難しくて、何度も練習しました。
先輩の作業を手伝いながら、準備するものや作り方を覚えていく。当時は分からなかったことも、自分が教える立場になってから、「一緒にやるからこそ覚えられたんだな」と感じます。
——当時、目標にしていた先生像はありましたか。
子どもの話をよく聞く先生です。そういう先生は子どもたちから慕われていて、私も「大好き」と言ってもらえる先生になりたいと思いました。子どもたちがその先生を好きだという気持ちは、関わっている姿から伝わってくるんです。
当時は目の前の仕事で精いっぱいで、子どもの様子になかなか気づけないこともありましたが、先輩たちの保育を見ながら少しずつ学んできました。
——子どもへの関わり方について、先生同士で考えが分かれた時は、どう話し合っていますか。
例えば、活動の輪に入りにくい子がいる時ですね。その場で参加を促すのか。その子の個性やタイミングを見ながら、入れるようにしていくのか。先生によって考え方は違いますし、担任としての思いもあります。園長先生と意見が違う時も、「私はこう思うんですけど、どう思いますか」と率直にお話しします。園長先生の判断や考えを受け止めながら、関わり方を考えていきます。
その時にいつも立ち返るのが、なす若葉会の「子ども第一主義」です。「これをしたら子どもたちは喜ぶかな」「保育士は楽かもしれないけれど、子どもたちがついてくるのは大変じゃないかな」と、子どもの側から考える。寄り添ってあげる時と、少し頑張ってほしい時があります。どちらなのかを考えるためにも、まず、その子の様子を見ていくことが大事だと思っています。小さな一歩でも、その子なりに成長して次の学年に進めるように関わっていきたいです。
あの時の園児が、保育士を目指して戻ってきた。

——ひばりヶ丘保育園で19年勤続してきたからこそ、できた経験はありますか。
「子どもが好き」という気持ちから始めた保育士ですが、19年も続けていると、卒園した子が実習生として戻って来てくれるようになりました。「保育園の時がすごく楽しかったから」と聞くと嬉しいですね。ここで働きたいと言ってくれる子もいます。
一緒に過ごしたのは、その子の小さい頃の数年間です。その子が大きくなって、仕事を選ぶ時に、ここで過ごした時間を思い出してくれる。今度は先生としてこの園で働きたいと思ってくれることが、すごく嬉しいんです。
定期的にボランティアで遊びに来てくれたり、卒業式の後に顔を見せに来てくれたり。長く働いている分、卒園した後の成長した姿にも会えることは本当に嬉しいですね。
——子どもたちには、どんな大人になってほしいですか。
シンプルなことかもしれませんが、自分の気持ちや考えを、人に伝えられるようになってほしいです。助けてほしくても、なかなか言えない子がいます。親や周りの大人にも気持ちを言えず、「こうして」と言われたことに従う子もいると思います。自分で考えて行動することも大切ですけど、困った時には、安心して話せる人に相談できるようになってほしいですね。
私自身、人に頼るのが得意ではないんです。仕事をお願いしようと思っても、「この先生も大変そうだから、自分がやろうかな」となってしまう。それで抱え込んで、つらくなった時期も正直ありました。そんな時に、周りの先生が「何か手伝うことありますか?」と声をかけてくれました。自分からお願いできずにいたけれど、頼ってもいいんだなと思えたんです。
だから、子どもたちにも、助けてほしい時は自分から伝えていいと知っていてほしい。そのためにも、私自身が、子どもが困っている時に気づける先生であり続けたいです。話してくれたことをしっかり聞いて、まだ話せない時には表情も見て、自分から関わっていく。そうやって信頼関係を築いていきたいと思っています。
毎日楽しく、笑顔で過ごしてほしい。困ることがあったら、一人で抱えずに伝えてほしい。子どもたちには、これからもこう伝えていきたいです。
助けてって言っていいんだよ。必ず味方でいてくれる人がいるから。
(取材・執筆:山口 帆乃夏)
社会福祉法人那須若葉会の詳細・採用情報はこちらから
◆HP:https://nasuwakaba.jp/
◆求人情報:https://nasuwakaba.jp/recruit.html