創業194年の天満屋から紐解く。今この時代に百貨店で働く面白さとその理由

パープル

written by ダシマス編集部

美術品、日用品から嗜好品など多種多様な商品が揃い、ショッピングのアミューズメントパークとも言える百貨店。店内に並ぶ商品には、不思議と格式の高さのようなものを感じ「お世話になった方へのお土産を選ぶなら百貨店」という意識を持っている人も多いのではないでしょうか。

百貨店を百貨店たらしめるのは、その長い歴史の中で積み上げた信頼のたまもの。そう語るのは株式会社天満屋(以下:天満屋)で人事を務める余財 雄大(よざい ゆうだい)さんです。

岡山県に本店を構える天満屋の創業はなんと1829年(文政12年)。あと6年もすれば創立200年となる大変歴史のある百貨店です。そんな天満屋に勤務して早10年。接客や食品バイヤーを経て人事を務める余財さんに、今この時代に百貨店で働く面白さやその理由、そして天満屋としての今後の展望など、存分に聞かせていただきました。

「接客」はあくまでも百貨店業務の中の一部であり、本当の楽しさはその裏側にある。本記事ではそんな裏側をお伝えします。

余財 雄大(よざい ゆうだい)さん

余財 雄大(よざい ゆうだい)さん

1990年生まれ。明治大学法学部卒。入社後は岡山本店食品TMで青果を担当。野菜・果物の仕入発注をしながら、地元とコラボしたイベント企画や、百貨店の顔である物産展も担当。その後、WEB・カタログTM 食品担当バイヤーへ異動。中元・歳暮、バレンタインやクリスマスケーキなどの商品掲載交渉やカタログ編纂を担当。初登場やオリジナル商品も数多く企画。2018年から現在の人事担当として、天満屋の魅力を就活生へ発信中。

取材・執筆:大久保 崇

取材・執筆:大久保 崇

『ダシマス』ディレクター。2020年10月フリーランスのライターとして独立。2023年1月に法人化し合同会社たかしおを設立。“社会を変えうる事業を加速させ、世の中に貢献する”をミッションとし、採用広報やサービス導入事例など、企業の記事コンテンツの制作を支援する。猫ファーストな人生。歩くこと、食べることが好き。

百貨店の仕事=接客からの脱却。多様な仕事が経験できる裏側を伝えたい

――余財さんが天満屋に入社した理由を教えてください。

元々百貨店で働きたいという気持ちがありました。

私は性格的に人と接することが好きなのと、ファッションなども含め自分の持ち物にはある程度こだわりがあります。東京の大学に通っていた時にはよく都心で買い物をしたり、有名なテーマパークで接客など、東京でしかできないことを経験していました。

「取り扱う商品にこだわりながら人と接する仕事」と考えると、自分には百貨店の仕事が向いているなと思ったんですよね。

 

――東京の大学に行かれていたとのことですが、そのまま都心部で働かずに地元に帰ってこられたのはなぜでしょうか。

確かに百貨店で働くなら東京でもよかったのですが、働きながら住む場所として考えた時に岡山の方が自分にあっていると感じたからです。例えば土地の大きさや人の多さですね。東京に出てみて初めて感じたことですが、岡山が自分にあっていると気がつきました。

 

――働く場所を探す時は自分が暮らす環境も同じくらい大事ですね。余財さんはどういったお仕事を主にされているのでしょうか。

今の仕事は人事で、主に採用を担当しています。今は直接お客様と触れ合うシーンが少なくなりましたが、色んな領域の仕事を経験できているので充実しています。

 

――採用はどの業界でも重要度が増しています。率直に天満屋さんの状況はいかがでしょう。

確かに様々な業界で、自社の透明性を上げて情報発信をしている企業は増えています。学生をはじめ求職者の企業選びの意識も上がっているので、条件面よりも「どんな会社で何のために事業をしているのか」や「ここで働いたらどんな経験が積めるのだろうか」という「なぜ」を大事にしているのだと思います。

そんなご時世ですので、私たちも工夫しなければ百貨店で働きたいと考える学生や求職者は増えません。ここが採用担当として私がなんとかしなければならない大きな課題です。

一般的に百貨店の仕事と言うと「丁寧な接客」というイメージが8割、9割を占めると思います。もちろん接客も大事なのですが、それだけではない百貨店の仕事の多様性を、大学生や求職者に伝えるにはどうすればいいかを日々考えています。

百貨店での接客の仕事もきっとやりがいを感じられると思います。ですが百貨店の仕事の醍醐味はその裏側、出店していただく各店舗様と協力しながら進めていく過程にもあるということを伝えたいです。

 

天満屋にしかできない購入体験。作り手が込めた想いやストーリーをお客様に届ける

——天満屋でのお仕事の楽しさや、やりがいはどういった点にあるのでしょうか。

商品の背景にある作り手のこだわりやストーリーを一緒にお客様に届けることです。これが天満屋“らしさ”であり、日々一緒に仕事をする人にも大事にしてもらいたいと思っている点です。ここに仕事の楽しさややりがいがあります。

私たちはお求めいただきやすい価格の商品をいかに仕入れるかではなく、モノの中身に徹底的にこだわるというアプローチも可能です。食品であれば、素材だったり、製法だったり、品質だったり……。ストーリーがある商品を売ることができるのが、小売業の中でも百貨店の醍醐味でありスーパーやコンビニとの違いです。

私が食品バイヤーをしている時に、ある飲料メーカーの社長さんから「作っている商品に自信を持っているからこそ、スーパーでもコンビニでもなく天満屋で売りたいんだ」という話を聞きました。いち百貨店人として非常に嬉しかったです。益々商品の良さだけではなく、商品の背景やストーリーまでお客様にお伝えしなければならないと思いました。

 

――店側としても、数ある商品の中からそうした作り手のこだわりやストーリーのある商品を選ばれているのですね。

私たちも選び手としてのこだわりを持って商品を選び、自信を持って商品をお客様に届けます。

例えばリンゴジュースだとしたら、私たちが扱うのは「そこそこで美味しいリンゴジュース」ではなく「とことんこだわったリンゴジュース」です。

リンゴの産地にこだわったり、一番おいしい収穫時期のリンゴしか使わないと時期にこだわったり。収穫後も冷凍保存はしないとか、ジュースにする際にすぐ加工すると素材が生かされないから、非効率でも素材を生かすこと優先するといったことなど。こうしたこだわりがつまった結果、一本1000円だとしても選ばれる商品になるんです。

メーカーさんとしては、作った人のプライドとこだわりを届けたいという想いがあります。だから天満屋のような百貨店“だけ”で販売することによってブランドの価値を守っていく。こうした作り手の想いも含めてお客様に届けるのが、私たちが介在する意味ではないかと思っています。

 

 

——取り扱う商品を選ぶ際に特にこだわっているのはどんなところでしょうか。

「地元密着」という点をとても大事にしています。

いい意味で私たちは商圏を広げていません。私たちは200年近く岡山・広島で商いをしてきました。そして自分達でここまで大きくなろうとしてきた、というよりも「岡山の街と一緒に発展している」という想いが自然と私たちの中にあるんですよね。

またGMS(General Merchandise Store:総合スーパーの略)と比べた時の供給量も多いわけではありません。大量には作れないけれど、こだわり抜いている商品というのは世の中にたくさんあります。こうした商品を、岡山をはじめとした中国地方のお客様へ丁寧にお届けしたいのです。

私がバイヤーとして商品を選んでいた時は、地元密着に加えて「どれだけ心が揺さぶられるか」、「どれだけ自分が共感できるか」ということも大事にしていました。

企画規模の大きさにもよりますが、現場起点でアイデアが生まれて実現することも少なくありません。天満屋には年次関係なく「こんなことがしたい!」と言えば実現できる環境があります。

 

百貨店が100年以上かけて積み上げてきた社会的信頼。その価値を再認識してもらうための努力

——各メーカーや作り手が天満屋のような百貨店で売りたいと思う理由は何でしょうか。

「包装紙」は大きく影響があると考えています。

品物を受け取った人は包装紙を見て「この人はこういうお店で時間をかけて選んでくれたんだ」と、買う人の心遣いを受け取る人に伝えられます。それは100年以上かけて百貨店が築いてきた信用があるからこそできることです。

 

——時間をかけて築いた社会的信用は一朝一夕ではできないですね。では今後、百貨店としてより価値を高めるために必要なことは何でしょうか。

百貨店らしさを再認識してもらえるような働きかけですね。私の親世代はよく百貨店を利用していました。ですが今の大学生にとっては、親世代もショッピングセンターやオンラインショップが普通な時代になってきています。

私たちがこだわって選び抜いている地元の商品や、長い年月を積み重ねて得た信用など、モノが溢れている時代だからこそ、私たちにしかできない役割があります。

そうした認識を多くの方に持っていただくため、今が頑張り時です。

 

——飲食店や小売店といった業界は特に大きくコロナの影響があったように思います。天満屋ではコロナ禍を期にどのような変化があったのでしょうか。

今までは店舗にどれだけ多くのお客様を呼ぶかがすごく大事な指標でした。来店者数が多ければ売り上げが比例して増えるという考え方ですね。そのためにCMやチラシなどに広告費をかけていました。

しかしコロナ禍を通して「来てほしいお客様にどれだけきていただけるか」に重きを置くようになりましたね。「この人に来てほしい」の“この人”に効果的に情報を届けるにはどうするのか、を考えるようになりました。

岡山店や福山店にて取り組んでいるオンライン接客サービスも、コロナ禍以降始まった取り組みです。現場の社員達が状況を打破しようと考えたアイデアが形となった事例ですね。

 

——ちなみに百貨店にとってライバルとなる店というのはどこになるのでしょうか。

どこかの店舗を意識してというよりも、自分自身の物差しと向き合うことの方が大事ですね。

百貨店は良い意味で「百貨店」として単独でカテゴリされています。そのためお客様からの期待度は非常に高く、「百貨店なのだからこれくらいのレベルは当たり前だろう」という目が向けられているのも事実です。

期待通りのレベルのものを提供するのは当たり前。そこを超えて感動していただくには期待したレベル以上のものを提供しなければなりません。そしてその基準は私たちにあります。提供するクオリティや求めるレベルの基準も、自分たちが物差しになりがちなんですよね。

百貨店としてのクオリティを維持できるかどうかは我々次第です。

抽象的で分かりにくい部分ではありますが、お客様が求めている「心の満足」を追求していくためにはお客様の期待値は決して下げてはいけません。

提供するクオリティを下げてはいけないという意味で、ライバルは自分たち、百貨店自身なのかなと考えています。

 

働く環境は整っている。今必要なのはチャレンジ精神溢れる“熱”だ

——天満屋の現場の雰囲気についても教えてください。

仕事は皆プライドを持って厳しく取り組んでいますが、社内は全体的に和気藹々(わきあいあい)としていますよ。上司部下分け隔てなくコミュニケーションも活発だと思います。

 

——社内でのコミュニケーションがしやすくなるように取り組んでいることなどはありますか。

会社としてというよりもマネージャー自身が意識していることですが、会話することのハードルを上げないようにしていますね。「昨日見たテレビどうだった」くらいの雑談から仕事の話に入るなどをしています。

私も人事として、皆さんが「楽しい時間を増やすことができるか」を大事にしています。そういった意味でも、会社の制度も上手く利用しながら自分に合った仕事の仕方をしてほしいですね。私も率先して短時間勤務制度を活用しています。

それまで男性で短時間勤務制度を活用している社員はいなかったのですが、二人目の子どもが生まれたことを機に取り入れてみたんです。人事として出来ることは何かと考えた時に、こういった制度を誰でも使える職場環境になる突破口になれたらと思いまして。

私の場合は小さい子どもが二人いるので、短い時間で勤務しながら仕事と子育てを両立しています。短時間勤務の利用は女性がほとんどなので、男性の利用者も増えてほしいです。

誰でも使いたいと言えば周囲の人は理解して受け入れてくれます。だから不安がらず、まずはとにかく手を上げてもらえたらと思います。

 

——ご自身が短時間勤務をしてみて良かったところや、反対に大変だったところがあれば教えてください。

フルタイム勤務よりも少し早く帰宅できるので、夕食の準備と子どもの世話を妻と分担してできるようになったのは良かったですね。ただやはり子育ては大変だなと実感しました。

親が二人とも仕事しながら子育てをするというライフスタイルが増えているので、働くお父さんの視点と働くお母さんの視点、両方知ることができたのは良かったです。

 

 

——この記事を通して、今の百貨店の状況を楽しめる、もしくは自分こそが変えてやるんだ!と思えるような人が興味を持ってくれると嬉しいですね。

中堅社員、ベテラン社員ばかりになっていくと、どうしてもモチベーションが落ちついてしまう傾向があります。入社時の熱を再燃させてくれるような人が増えると嬉しい限りです。 

成熟し落ち着いているこの業界だからこそ、チャレンジ精神旺盛な人は大歓迎。会社としても新しいフィールドでのビジネスチャンスを模索しているところですから、大きな課題に挑戦したいと思える人はきっと活躍できる場所だと思います。

 

株式会社天満屋について

・ホームページ:https://www.tenmaya.co.jp/

・採用情報:https://www.tenmaya.co.jp/jinji/index.html

 

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