「電気のある日常」を、静かに支えて50年。東北用地測量社が築く「ワクワク」というインフラ
written by 紺野 天地
株式会社東北用地測量社
「ワクワクも、インフラに。」株式会社東北用地測量社が50周年の節目に掲げたこの言葉には、送電インフラを守るという「責任」の先に、人の心を前向きにするエネルギーを届けたい。そんな想いが込められています。
同社が担ってきたのは、送電線や鉄塔を安全に維持するための地権者調査や森林伐採の調整、現地での工事対応など。天候や険しい地形、ときに危険と隣り合わせの現場に向き合いながら、地域の人々との信頼関係なしには成り立たない仕事です。決して目立つ仕事ではありませんが、電気のある日常を陰で支え続けてきました。
「家業に入ることを望んでいたわけでも、経営者を目指していたわけでもないんです」と語る三代目代表取締役の岸野綾子さん。それでも数々の困難を経てたどり着いたのは、「会社は人でできている」という、創業から受け継がれてきた価値観でした。
岸野綾子(きしの・あやこ)さん
代表取締役社長
1974年創業の東北用地測量社・三代目代表。宝飾店やアパレル業界での勤務を経て、2001年、事務員として東北用地測量社に入社。その後、経営を引き継ぎ、現在は三代目代表として組織づくりと事業の舵取りを担っている。
「人の力」を企業の中心に据え、社員同士が支え合いながらも自分の足で成長できる組織づくりを重視。送電インフラを守るという使命に加え、「ワクワクもインフラに」というビジョンのもと、安心と前向きなエネルギーが循環する会社を目指している。
会社の源流にある「人と向き合うこと」

――まずは、会社の原点について伺いたいと思います。創業者であるお祖父さまは、岸野さんにとってどのような方でしたか。
一言で言うと「仏みたいな人」ですね。周りからも、よくそう言われていました。誰に対しても優しくて、身内の立場から見ていると「じいちゃん、それ損してない?」と思うこともありました。
実際に、人を信じすぎて騙されたようなこともありましたが、それでも誰かを責めることはなくて、「まあ、しょうがないな」と受け止めてしまう。周りのほうが心配になるような人だったと思います。
――創業当時の事業も、人との関係性が重要だったと伺っています。
そうですね。送電線を建てたり維持したりするには、山林の地権者さんの理解が欠かせません。祖父は、地域に足を運び、顔の見える関係を築きながら、山と人、電気と地域の「橋渡し役」を担ってきました。
中には、どうしても話が進まない地権者の方もいます。でも祖父は、「説得する」というより、「一緒にやろう」と巻き込んでしまう人でした。地権者だった方を社員として迎え、そのまま役員として一緒に仕事をするようになったこともあります。
――かなり大胆なやり方ですね。
今では、なかなか考えられないですよね。でも、敵対するよりも同じ側に立つ、手を取り合うという姿勢が、結果的に「人」や「自然」と向き合う会社の土台をつくってきたのだと思います。
――その価値観は、今の会社にも受け継がれていますか。
はい。「自然と人との調和」という考え方に、しっかり受け継がれています。
その「人と向き合う姿勢」は、地域に対してだけでなく、社内に対しても同じでした。厳しい現場だからこそ、まず守るべきは働く仲間の幸せと誇り。「会社は人でできている」という考え方は、言葉として成文化したのは最近ですが、判断や行動の基準としては、ずっと会社の真ん中にあったと思います。その積み重ねが、東北用地測量社の50年を支えてきたのだと、そう感じます。
「会社は一人ではつくれない」という気付き

――岸野さんは、もともと家業を継ぐ前提で入社されたわけではなかったそうですね。
はい、まったく考えていませんでした。祖父が創業した会社ではありますが、「自分が家業に入る」という意識はなくて、家族と一緒に働くことにも抵抗がありました。入社のきっかけも、別業界で働いていたときに、祖母から「おじいちゃんの会社に入ってみたら?」と声をかけられて、流れの中で入ったのが正直なところです。
2001年に事務員として入社して、パソコンが少し使えたので、最初は書類作成や雑務を中心に担当していました。
――その後、経営に関わる立場へ進まれていきます。
入社から数年経った頃、会社の状況がかなり厳しくなりました。結果として、私が保証人になり、代表を引き継ぐことになったんです。経営の知識も覚悟も十分ではなくて、「選んだ」というより「向き合わざるを得なかった」という感覚でした。
私自身、数字の見方も資金繰りについても分からないし、会社としては就業規則すら整っていない。現場にも出ながら、とにかく会社を存続させることだけを考えて、必死でした。
――社長に就任されてから、特に苦しかった時期はいつ頃でしょうか。
経営の勉強を始めて、「会社を良くしなければ」と焦っていた頃ですね。研修に行って理念や組織づくりを学び、これを早く社内に落とし込まなきゃ、と突き進んでいました。
でも、気づいたら社員との間に溝ができていたんです。みんなからしたら、「急に何を言い出したんだろう」って違和感があったと思いますし、結果的に退職する社員も出てしまいました。今振り返ると、私が一人で走りすぎていたんでしょうね。
――印象に残っている出来事はありますか。
とても信頼していた社員が、一度会社を離れたことです。私が社長になってから初めて中途採用した人で、現場をよく理解していて、若手の中でも中心的な存在でした。
現場のことも、管理のことも、無意識のうちに頼りすぎてしまっていたんだと思います。辞めると聞いたときは、本当にショックでした。「自分が潰してしまったかもしれない」って。
――ご自身の中で考え方はどのように変わっていきましたか。
それまで私は、「社長が正解を示さなきゃいけない」と思っていました。でも、私1人では何もできない。「みんなで考えて、みんなで歩む」ことが大事なんだと気づいたんです。
立ち止まって、今どこにいるのかを確認する。振り返って、みんなが一緒に歩いているのかを見る。あの時期は本当に苦しかったですが、経営者として一番大切なことを学んだ時間だったと思います。ちなみに、そのとき辞めた社員は、後に戻ってきてくれました。
何よりも大切にしている「理念」や「あり方」

――考え方の変化は、どのような取り組みに表れていますか。
まず取り組んだのが、理念や考え方を「言葉にすること」でした。それまでは、会社として何となく大切にしている価値観はあっても、明文化されていなかったんです。
最初は研修で学んだ言葉をそのまま持ち帰っても、難しくて社員には伝わりませんでした。朝礼で唱和する、という方法もありますが、私自身があまりしっくりこなくて。それよりも、「どういう場面で、この考え方が大事なのか」を、日常の会話の中で少しずつ伝えていくことを意識しました。いきなり全員に、ではなく、まずは幹部やリーダー層と目線を合わせる。そこから少しずつ、現場へ広げていくような形を取りました。
――環境づくりについてはいかがでしょうか。
理念だけあっても、日々の仕事と結びつかなければ意味がないので、評価制度や面談の仕組みを取り入れました。業績や成果はもちろん大切ですが、人が育ち、新しい挑戦ができる「しなやかな会社」であるためには、「過程」や「努力」にも目を向けるべきだと思ったんです。
現在は、数字の評価とあわせて、「どう行動したか」「どう成長しようとしているか」といったプロセスも見るようにしています。上司と部下が定期的に面談を行い、言葉を交わすこと自体を大切にしています。
――最近、特に力を入れている取り組みはありますか。
「知的資産経営」に取り組んでいます。会社の価値って、決算書に載る数字だけではないですよね。これまで積み重ねてきた歴史や、現場で培われた知恵、人との関係性。そうした「目に見えない資産」を、社員みんなで掘り起こしています。
過去の出来事を振り返ったり、なぜ今この仕事ができているのかを話し合ったり。若い社員や中途入社のメンバーにとっては「この会社で働く意味」を知るきっかけにもなっていたら嬉しいです。
ワクワクも、インフラの一部に。人が前を向ける会社であるために

▲創業50年を節目に「Energy Next」というスローガンを掲げた
――社内の雰囲気づくりで、意識していることはありますか。
正直なところ、特別なことをしている感覚はあまりないんです。ただ、「言いたいことが言える空気」は大事にしたいと思っています。
仲間を思いやりながらも、プロとしての責任を持って成長を続けるには、「自ら学ぶ姿勢」が大切です。けれど、立場で意見が決まってしまうと、どうしても本音が出にくいし、主体性が薄れてしまいますよね。それは、成長の質に影響すると思っています。
――その一環として、何か取り組んでいることはありますか。
ちょうど最近、ニックネーム制を取り入れようと、みんなから「なんて呼ばれたいか」を募集しているところです。新卒の社員が入ってくるタイミングもあって、「呼び方」から変えてみようと思いました。
現場では昔ながらの呼び捨て文化もあったのですが、今の時代には合わない部分もありますし、私自身「社長」と呼ばれるのが好きじゃなくて。役職は役職として責任を持ちながらも、普段は名前やニックネームで呼び合える関係を目指しています。
――デジタル化にも、早い段階から取り組まれてきました。
5年ほど前から全社員にタブレットを支給して、事務作業を中心にデジタル化やペーパーレス化を進めています。とはいえ、ベテラン社員も多かったので最初は大変でした。
ただ、「業界で一番早く、新しいことをやってみたい」という気持ちはずっとあって。やると決めたら、中途半端にせず、研修も含めて一気に進めました。今では「これ便利だね」と言ってくれる人も増えています。何より、余裕ができれば、人と話す時間や、自分と向き合える時間が増えますから、その点でもメリットを感じています。

――岸野さん自身、「仕事を楽しんでいる」印象があります。
そうですね。「自分が全部やらなくていい」という感覚にも重なりますが、以前は「弱さを見せちゃいけない」と思っていました。でも、それが一番つらかったんですね。
今は、無理に切り替えようとはしていません。悩むときは悩むし、落ち込むときもあります。ただ、「自分らしくいること」を許せるようになってから、いろんな状況を楽しめるようになりましたし、会社の空気も柔らかくなった気がします。リーダーの状態は、想像以上に組織に伝わるものだと思います。
――最後に、求職者の方にメッセージをお願いします。
「ワクワクもインフラに」。これは、これからの50年に向けて掲げている言葉です。
電気というインフラは、人の暮らしを支えるために欠かせません。でも、それだけではなくて、「人が前を向ける力」や「挑戦したくなる気持ち」も、これからの社会には必要だと思っています。
悩みや不安があるのは当たり前。私自身、失敗も遠回りも、たくさんしてきました。けれど、動いてみないと、何も始まりません。一歩踏み出すことで、出会える人や、見える景色は必ず変わります。
地域や社会を支える仕事に、少しでも興味がある方。人と一緒に、試行錯誤しながら前に進みたい方。そんな方と、ぜひ一緒に働けたら嬉しいです。
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